愛を西元の前に

高校最後の夏、北京での旅で友人に背中を押され、ある少女と写真を撮った。帰国後、その記憶を無名小站に記し、やがて西元と出会う。即時通での会話が日常に小さな波を生むが、やがて試験の忙しさに埋もれ、関係は静かに消えていく。彼女の優しさを誤解したことに気づいた頃には、もう手の届かない過去となっていた。あの夏は色褪せたフィルムのように、記憶の片隅にそっと横たわっている。

タイトル:「愛在西元前」

あの夏、北京の陽光は煉瓦の隙間まで染み込み、影を細く引き伸ばしていた。僕たちは故宮の前に立ち、旅人のように辺りを見回していた。その場所に馴染むことを願いながらも、どこか落ち着かず、ただはしゃぎ回るしかなかった。

「行けよ!彼女と写真を撮れって!」

友人たちの声が、熱気とともに背中を押す。断る理由もなかった。いや、断ってしまえば、それこそ自分の小ささを認めることになる。だから、僕は前へ歩き出した。彼女の隣に立ち、なんとか笑顔を作る。シャッター音が鳴り、時間がひとつの断片として切り取られた。

17y summer

帰国後、僕は旅の記憶を無名小站に残した。写真を並べ、言葉を添え、夏の形をなぞるように。そんな断片のひとつのコメントに、彼女——西元がいた。

君の名前ー西元

彼女の言葉は軽やかで、時に皮肉めいていた。けれど、それは静かな湖面に小石を投げるように、僕の日常に小さな波紋を作った。即時通のウィンドウが開くたび、胸の奥がかすかに揺れる。けれど、僕は自分が特別な存在だとは思えなかった。背は低く、痩せていて、顔には青春の名残が点々と残っていた。成績は常に底辺をさまよい、服のセンスもない。そんな僕を、彼女が特別に思うはずがない。

時間が経つにつれ、僕たちの会話は次第に減っていった。試験のプレッシャーが日々を覆い、気づけば、彼女の言葉も、彼女の存在そのものも、静かに遠ざかっていった。

たぶん、僕は彼女の優しさを勘違いしたのだろう。一瞬の光を炎だと思い込み、刹那の温もりを約束と信じた。

それ以来、僕たちは二度と連絡を取ることはなかった。

あの夏は、もう過去のものだ。まるで古いフィルムのように、色褪せながら、僕の記憶の片隅にそっと横たわっている。


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