告白しなかった

漆黒の中、鼓動だけが響く。 鈍く、途切れ途切れに。砕けたガラス片が床に散らばるように。

校舎の灯りは湿った空気を孕み、無音の雨に洗い流されたかのように滲んでいた。ぼやけた光と交錯する影。それらは揺らめきながら、決して自分と重なることはない。

あの年、診断書に刻まれた冷たく無機質な文字。 うつ病。

カウンセラーの微笑みは、貼り付けられたポスターのように不自然だった。柔らかい声、けれど視線は長く留まらない。その言葉と共に、私は県立病院へ送られた。白い壁、無機質なベッド、整然と並ぶ薬瓶。空気には薬液の匂いが満ち、透明な液体がコップに注がれる。飲み込むと、胃の奥がひんやりと冷えた。

病院の扉を出ても、世界は何一つ変わらなかった。

同級生たちの囁きが、ゆっくりと耳に染み込む。 「考えすぎじゃない？」 「そんな大したことじゃないでしょ？」 「構ってほしいだけなんじゃ？」

軽い口調。しかし、言葉は刃物のように鋭かった。 私は徐々に透明になっていく。教室でも、廊下でも、体育館の隅でも。気づけば誰の視界にも映らなくなっていた。

かつての友人たちは距離を置いた。 彼らの目には、面倒くさそうな色が滲んでいた。 「大げさすぎる。」 「同情を引きたいだけじゃないの？」 「まさか本当に何かしたんじゃ……？」

私にまつわる噂。 片思い、付きまとい、嫌がらせ。 真実など関係なかった。言葉が形を持ち、別の「私」が作り上げられていく。 歪められ、嘲笑され、避けられる存在へと。

家庭内の争いは止むことがなかった。 狭い家に響く罵声。親戚たちの顔は怒りに歪み、母の声は冷たく突き刺さる。 「全部、自分で選んだことでしょ。」 「弱すぎるのよ。」 「こんなことで潰れるなんて、情けない。」

部屋の鏡に映る自分。 痩せこけ、青白く、ニキビだらけの顔。

かつて夢を持っていた少年は、もうどこにもいない。 そこに立つのは、ただの影。

夜は、いつも長すぎる。

脳裏に浮かぶ、一人の兵士。

雪原に伏せ、息も絶え絶えに。

銃を握る指は白くこわばり、もはや引き金を引くことすらできない。

吹雪がすべてを包み込み、 世界は静寂に沈んでいく。

私は砕けた時間の中を歩き続けた。 重い足取り。踏みしめるたび、過去の傷がにじむ。 学校でのいじめ、家庭の冷たさ、社会の無関心。 言葉にならずとも、それらは確かに存在していた。

努力すれば、認めてもらえると思っていた。 勉強を頑張れば、報われると信じていた。

台湾大学に合格しても、過去は変わらなかった。 認められることもなく、 意味を持つこともなかった。

そして、私は去ることを選んだ。 どこにも属さず、行くあてもなく。

月の光が冷たく降り注ぎ、地面に影を落とす。

その影は微かに揺れ、過去の嘆きを呟いているようだった。

夜風が窓の隙間を抜け、記憶の断片を運んでくる。 非難、嘲笑、否定。

それでも、私は生きている。

どんなに深い闇に沈もうとも、私はまだ生きている。 過去を変えられなくとも、私はまだここにいる。

——どうして、私は今も生きているのか？